軸力(じくりょく)とは、物体の軸方向にかかる力のことです。
例えば、ボルトを締め付けると、ボルト本体には引っ張る力が生じます。これが軸力です。軸力は工学分野、特に機械や建築の設計において非常に重要な概念となります。
軸力の単位はニュートン(N)やキロニュートン(kN)で表されます。適切な軸力を確保することで、部品同士の強固な結合や安定した構造を実現できます。
また、軸力は圧縮力と引張力に分けられ、方向によって性質が変わります。軸力を正確に計算・管理することで、機械の安全性や耐久性を確保することができるのです。
軸力とトルクの違い
軸力(じくりょく)とトルクは、機械や構造物において異なる役割を持つ重要な力学的概念です。
以下の表で両者の違いを明確にしてみましょう。
特性 | 軸力(じくりょく) | トルク |
---|---|---|
定義 | 物体の軸方向に沿ってかかる直線的な力 | 物体を回転させる力(回転力) |
方向 | 押す力または引く力(直線方向) | 回転させる力(円運動方向) |
単位 | ニュートン(N)、キロニュートン(kN) | ニュートンメートル(N・m) |
計算式 | 力(F)そのもの | 力(F)×回転軸からの距離(r) |
実例 | ボルトが引っ張られる力 | レンチでボルトを回す力 |
目的 | 部品の結合、構造の安定性確保 | 部品の回転、締め付け動作 |
例えば、ボルト締結において、レンチで回す際に加える力がトルクであり、締め付けによってボルト自体に生じる引っ張り力が軸力です。 両者は密接に関連しており、特定のトルク値で締め付けることで、目標とする軸力を得ることができます。 適切な軸力管理は構造物の安全性に直結するため、トルクと軸力の関係を正しく理解することが重要です。
軸力を計算するための方法
軸力(じくりょく)を計算するには、いくつかの一般的な方法があります。目的や状況に応じて適切な計算方法を選択することが重要です。それぞれの主要な計算方法について説明します。
トルク換算法
トルク換算法は現場での締め付け作業で最もよく使われる方法です。一般的に加えられたトルクのうち約90%が摩擦によって消費され、軸力に変換されるのはわずか10%程度です。
以下の関係式を用います。
【軸力 = トルク ÷ (ボルト直径 × 係数)】
係数はボルトの種類や潤滑状態によって変わるため、メーカーの指定値を参照することが重要です。トルク係数(K)は、潤滑剤を使用した場合0.1~0.2、ドブメッキ(溶融亜鉛めっき)や無潤滑(ドライ・何もつけない場合)の場合は0.35が一般的な値となります。
この方法は比較的簡便ですが、摩擦係数の変動によって精度が左右されます。
理論計算法
理論計算法は設計段階で多く用いられる方法です。以下の基本公式に基づいて計算します。
【軸力 = 応力 × 断面積】
この方法では「ボルトの有効断面積×降伏点又は耐力×65%(安全率)」という計算が用いられることもあります。
理論値を求めるのに適していますが、実際の施工状態を完全に反映しているわけではないことに注意が必要です。
直接測定法
直接測定法は軸力計や歪みゲージなどの専用機器を使用し、実際にかかっている軸力を測定する方法です。この方法は精度が高く、重要な構造物の検証に用いられます。測定機器のコストがかかるものの、最も信頼性の高いデータが得られます。
超音波測定法
超音波測定法はボルトの伸びを超音波の伝播時間から測定する高精度な方法です。この方法は非破壊検査として優れており、既に締結されたボルトの軸力を確認するのに適しています。特に重要な接合部や高い安全性が要求される場所で使用されます。
軸力が不足すると起きる問題
軸力(じくりょく)が不足すると、様々な深刻な問題が発生します。
軸力は部品同士の結合を維持する重要な要素であり、その不足は機械や構造物の安全性に直接影響します。
ボルトの緩み
軸力不足の最も一般的な問題は、ボルトの緩みです。軸力とは、ばねの原理を利用した復元力のことです。この軸力がなくなると、ねじ山と山の間の摩擦力が失われ、ボルトが緩み始めます。特に振動や衝撃が加わる環境では、軸力不足によるボルトの緩みが加速します。
接合部の相対滑り
適切な軸力がないと、締結された部品間で相対的な動きが発生します。必要な軸力が出せていないと外力に負けて被締結物が動いてしまい、ボルトに衝撃を与え折損につながることがあります。この相対滑りによって、部品の位置ずれや連結不良が起こります。
疲労破壊の加速
軸力が不足すると、外部からの力が締結体全体に均等に分散されなくなります。ボルトに軸力損失が起こると、応力が締結体全体に分散できなくなり、ボルト軸や被締結材に応力集中が起こり、疲労を招いてしまいます。その結果、本来よりも早く部品が疲労破壊を起こす可能性が高まります。
密封性の喪失
ガスケットを使用した接合部では、適切な軸力が密封性を維持するために不可欠です。軸力不足によってガスケットが正しく圧縮されないと、液体やガスの漏れが発生します。これは化学プラントや配管システムでは特に重大な問題となります。
構造的強度の低下
建築物や橋梁などの大型構造物では、軸力不足によって設計上想定された強度を発揮できなくなります。ボルト軸力は、ねじ締結体の各々の機能を担う非常に重要な値となるため、軸力が低下するということは、締結体の機能の低下または喪失を意味します。これにより、全体構造の安全率が下がり、大きな事故のリスクが高まります。
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