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「電柱がなくなると街がどう変わるの?」
「無電柱化ってよく聞くけど、結局何がいいの?」
そんな疑問を持っていませんか?
無電柱化は、災害に強く美しい街づくりに役立ちます。電線を地中に埋設することで、安全で快適な歩行空間の実現が可能です。
そこで、この記事では、無電柱化について知りたい方へ向けて基本知識やメリット・デメリット、日本の現状と今後の展望について解説します。無電柱化への理解を深める参考として、ぜひ最後までお読みください。
無電柱化とは、街中に立つ電柱をなくし、電線を地中に埋設することです。
この取り組みには大きく2つの要素があります。
それぞれ説明していきましょう。
まず理解したいのが「無電柱化の定義と目的」です。
無電柱化とは、道路上の電柱を撤去し、電線や通信線を地中に埋設する取り組みのことです。単に電柱をなくすだけでなく、災害に強い安全な街づくりを目指しています。
主な目的は、地震や台風などの災害時に電柱が倒れるリスクを減らすことです。また、電線がなくなることで街の景観が美しくなり、歩道が広く使えるようになります。
無電柱化を実現するための「地中化の仕組みと種類」には、主に3つの方式があります。
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
電線共同溝方式は、無電柱化で最も多く採用されている方法です。
道路管理者が道路の地下に専用の溝(共同溝)を建設し、電力線と通信線を一緒に収納します。複数の事業者が同じ溝を共有するため、効率的に地中化を進められます。費用は国や自治体、電力会社、通信会社が分担して負担します。
単独地中化方式は、電力会社が独自に実施する地中化の方法です。
電力会社が自社の費用で地下ケーブルを敷設し、電柱を撤去します。通信線は別途対応が必要になるため、完全な無電柱化には追加の工事が必要です。比較的短期間で実施できる利点があります。
要請者負担方式は、民間の開発事業者などが費用を負担する方法です。
住宅地の開発や商業施設の建設に合わせて、事業者が無電柱化の費用を負担します。新しい街づくりの際に採用されることが多く、計画的に美しい街並みを実現できます。
無電柱化を実施することで、私たちの生活に多くの恩恵をもたらします。主なメリットには大きく3つがあります。
それぞれのメリットを詳しく説明していきましょう。
まず重要なのが「災害時の安全性向上」です。
無電柱化の最大のメリットは、地震や台風などの自然災害に対する安全性が大幅に向上することです。地上にある電柱は強風や地震の揺れで倒壊するリスクがありますが、地中に埋設された電線は物理的な損傷を受けにくくなります。
電柱の倒壊は道路を塞ぎ、救急車や消防車などの緊急車両の通行を妨げる原因となります。また、倒れた電柱や垂れ下がった電線は感電の危険性もあります。無電柱化により、これらのリスクを大幅に軽減できるのです。
次に注目したいのが「美観と観光への効果」です。
無電柱化により電線がなくなることで、街の景観が劇的に美しくなります。歴史的な建造物や美しい街並みを電線が遮ることがなくなり、本来の魅力を最大限に活かせます。
観光地においては、この効果は特に重要です。京都の祇園や金沢の兼六園周辺など、無電柱化を実施した観光地では、写真映えする美しい景観により観光客の満足度が向上しています。美しい街並みは地域のブランド価値を高め、経済効果も期待できます。
最後に重要なのが「歩道のバリアフリー化」です。
無電柱化により電柱がなくなることで、歩道の有効幅員が大幅に広がります。車椅子やベビーカーを利用する方々にとって、電柱は大きな障害物となっていましたが、これが解消されます。
また、視覚障害者の方にとっても、電柱という障害物がなくなることで安全な歩行が可能になります。高齢化社会が進む中、誰もが安心して歩ける道路環境の整備は重要な課題です。無電柱化は、真のバリアフリー社会の実現に大きく貢献します。
無電柱化には多くのメリットがある一方で、実施にあたってはいくつかのデメリットや課題も存在します。主な課題には大きく2つあります。
それぞれの課題について詳しく説明していきましょう。
まず大きな課題となるのが「コストの高さ」です。
無電柱化の最大の課題は、整備費用が高額になることです。従来の管路材(CCVP)を使用した場合、1メートルあたり約26,000円のコストがかかります。これに対して架空線の場合は、同じ距離でもはるかに安価で整備できます。
国土交通省では低コスト化技術の開発を進めており、角形多条電線管(FEP)や硬質ポリ塩化ビニル管(ECVP)の採用により、約3割のコスト縮減が可能とされています。しかし、それでも1メートルあたり17,000円から18,000円程度のコストがかかり、依然として高額な投資が必要です。
さらに、管路工事だけでなく、特殊部の設置や地上機器の配置、既存埋設物の移設費用なども加わるため、総事業費は膨大になります。このため、自治体の財政負担が大きく、無電柱化の推進を躊躇する要因となっています。
参考:国土交通省|無電柱化のコスト縮減の手引き(令和6年3月)
次に重要な課題が「工事の負担」です。
無電柱化工事は道路を掘削する大規模な工事となるため、周辺住民や通行者への影響が避けられません。工事期間中は交通規制が実施され、車両の通行が制限されます。特に幹線道路では迂回が必要になり、交通渋滞の原因となることがあります。
また、掘削工事に伴う騒音や振動も大きな問題です。住宅地での工事では、早朝や夜間の作業音が住民の生活に影響を与える可能性があります。工事車両の往来による粉塵の発生や、歩行者の安全確保も重要な課題となります。
さらに、工事期間が長期化することも負担となります。地下埋設物の移設が必要な場合や、複雑な地下構造がある場所では、工事が数か月から数年にわたることもあり、地域住民の理解と協力を得ることが不可欠です。
日本における無電柱化の現状は、地域によって大きな格差があります。
それぞれの現状について詳しく見ていきましょう。
まず注目したいのが「導入地域の例」です。
日本では観光地や景観の美しさが重要な地区を中心に無電柱化が進められています。代表的な成功事例として、京都の祇園や金沢の兼六園周辺などがあります。これらの地域では、歴史ある街並みと調和した美しい景観が実現されています。
首都圏では東京都が積極的に取り組んでおり、銀座や表参道などの商業地区で無電柱化が完了しています。また、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、競技会場周辺や主要な観光ルートでも整備が進められました。
地方では、鹿児島県出水市の武家屋敷群や新潟県見附市などで、地域の特色を活かした無電柱化事業が実施されています。これらの事例では、地域住民との話し合いを重視しながら、効率的な整備方法が採用されています。
次に重要なのが「都市と地方の差」です。
都市部と地方部では、無電柱化の進み具合に大きな差が存在しています。東京都心部や大阪、名古屋などの大きな都市では、予算に余裕があり、国の支援制度も活用しながら継続的に整備が進められています。
一方、地方部では予算確保が困難で、無電柱化事業への着手が遅れているのが現状です。特に人口が減少している地域では、お金をかけた分の効果を考えると事業の優先順位が低くなりがちです。また、工事に詳しい技術者不足や施工業者の確保も地方では課題となっています。
さらに、電気や通信の必要性の違いも大きな要因です。都市部では電力・通信の需要が高く、複数の事業者が関わるため調整が複雑になります。しかし、地方部では需要が少ない分、小型ボックス構造などの安い方法が使いやすく、効率的な整備が可能な場合もあります。
最後に重要なのが「諸外国との比較」です。
日本の無電柱化率は、海外の主要都市と比べて大幅に遅れているのが現状です。ヨーロッパの主要都市では無電柱化率が90%以上に達しており、パリやロンドンなどではほぼ100%近い水準となっています。韓国のソウルでも約95%の無電柱化が完了しています。
これに対して、日本の無電柱化率は全国平均で約1%程度にとどまっています。東京23区でも約8%程度であり、先進国の中では最も低い水準です。この差は、街の作られ方の違いや、戦後復興期の急速な電化が電柱と電線で進められたことが主な原因とされています。
近年、日本でも無電柱化推進法の制定により取り組みが加速していますが、海外水準に追いつくためには長期的かつ継続的な努力が必要です。安い技術の開発や効率的な整備方法の確立により、整備スピードの向上が期待されています。
日本で無電柱化がなかなか進まない背景には、構造的な問題があります。主な阻害要因には大きく2つがあります。
それぞれの問題について詳しく説明していきましょう。
まず大きな課題となるのが「費用負担の仕組み」です。
無電柱化事業では、道路管理者と電線管理者の間で費用分担が複雑に分かれています。1キロメートルあたり数億円かかる事業費のうち、地下設備の多くを道路管理者(国や自治体)が負担する仕組みになっています。
この仕組みの問題は、自治体の財政負担が非常に重いことです。特に財政基盤の弱い地方自治体では、事業着手そのものが困難な場合が多くあります。さらに、電力会社、通信会社など複数の事業者との調整に時間がかかり、事業の進捗が遅れる要因となっています。
次に重要な課題が「法制度とインフラの壁」です。
日本では戦後復興期に架空線による電化が急速に進められたため、既存のインフラが無電柱化に適していません。道路の地下には上下水道、ガス管など多くの埋設物があり、新たに電線を地中化するスペースを確保することが困難です。
法制度面では、長年にわたって架空線を前提とした規制や基準が作られてきました。近年、無電柱化推進法の制定や埋設基準の緩和により改善が図られていますが、まだ十分ではありません。また、工事に必要な技術者や専門業者の不足も深刻で、特に地方では施工体制の確保が大きな壁となっています。
無電柱化を計画的に進めるため、2016年に無電柱化推進法が制定されました。この法律には大きく4つの要素があります。
それぞれの内容について説明していきましょう。
まず重要なのが「制定の背景」です。
無電柱化推進法は、災害の防止、安全・円滑な交通の確保、良好な景観の形成等を図るため、無電柱化の推進に関し、基本理念、国の責務等、推進計画の策定等を定めることにより、施策を総合的・計画的・迅速に推進することを目的として2016年12月に施行されました。
近年、災害の激甚化・頻発化、高齢者・障害者の増加、訪日外国人を始めとする観光需要の増加等により、無電柱化の必要性が増しており、無電柱化をめぐる近年の情勢の変化を踏まえて法律が定められました。
参考:国土交通省|手法・工程
次に注目したいのが「国・自治体の役割」です。
無電柱化推進法では、国と地方自治体それぞれの責務が明確に定められています。国土交通省では、無電柱化法第7条の規定に基づき、関係省庁との協議や関係事業者への意見聴取等を経て、「無電柱化推進計画」を策定しています。
国は無電柱化推進計画の策定、技術開発の推進、財政支援などを担当します。地方自治体は地域の実情に応じた推進計画の策定と実施が求められ、道路管理者として電線共同溝の整備を進めるとともに、電線管理者との調整や住民との合意形成を図る責務があります。
重要なポイントは「政策の現状と計画内容」です。
「無電柱化推進計画」においては、2018年度からの3年間で約1400kmの新たな無電柱化の着手を目標にしており、防災、安全・円滑な交通の確保、景観形成・観光振興等の観点から、無電柱化の必要性の高い道路について重点的に推進することとしています。
また、計画を着実に実行していくため、コスト縮減の推進や財政的措置、占用制限の拡大等、様々な施策を講じながら、地方ブロック無電柱化協議会等を通じて、道路管理者と関係事業者等が連携して取り組んでいくこととしています。
最後に重要なのが「東京都などの先進事例」です。
東京都は全国に先駆けて2017年に無電柱化条例を制定し、都道での電柱新設を原則禁止としました。センター・コア・エリア(都心部)での無電柱化率100%を目標に、積極的な取り組みを進めています。
京都市や金沢市なども観光地の景観向上を目的とした無電柱化を推進しています。また、見附市や倶知安町などでは低コスト化技術の実証実験を積極的に取り入れ、効率的な整備を実現しています。これらの先進事例は他の自治体のモデルケースとして注目されています。
無電柱化の普及拡大に向けて、技術革新と制度改革が急速に進んでいます。今後の展望には大きく2つの柱があります。
それぞれの展望について説明していきましょう。
まず注目したいのが「低コスト工法の開発」です。
国土交通省では新たな管路材料の採用により約3割のコスト縮減を実現しています。従来の管路材が1メートルあたり約26,000円であったのに対し、新技術では17,000円から18,000円程度まで削減 されています。
小型ボックス構造やケーブル直接埋設構造などの新工法も開発が進んでいます。トレンチャー(溝堀機)を活用した施工では、掘削速度が従来の約5倍に向上することが確認されています。今後は、従来の3分の1程度のコストを目標とした技術開発がさらに加速すると期待されています。
参考:国土交通省|無電柱化のコスト縮減の手引き(令和6年3月)
次に重要なのが「官民連携の推進」です。
無電柱化の推進には、道路管理者、電線管理者、施工業者など多くの関係者の連携が不可欠です。国土交通省では地方ブロック無電柱化協議会等を設置し、関係者間の情報共有と協力体制の強化を図っています。
技術開発面では、官民一体となった研究開発体制が構築されています。また、国の補助制度に加えて、地方自治体独自の支援制度や民間資金の活用も検討されています。今後は、これらの官民連携をより一層強化し、効率的で持続可能な無電柱化の推進が期待されています。
無電柱化について、よくある質問にお答えします。
現在の無電柱化推進計画では、2018年度からの3年間で約1400kmの新たな無電柱化の着手を目標としています。しかし、全国の道路延長は膨大で、現在のペースでは全国への普及には相当な時間がかかるのが現実です。
優先順位として、緊急輸送道路、バリアフリー化が必要な道路、観光地周辺から重点的に整備が進められています。全国レベルでの普及には数十年単位の長期的な取り組みが必要です。
無電柱化により、台風や地震による電柱倒壊のリスクは大幅に軽減されます。電線が地中にあることで、強風や飛来物による断線事故も防げるため、停電の発生頻度は確実に減少します。
ただし、地中設備でも水害による浸水や地震による地中ケーブルの損傷は完全には防げません。また、復旧作業は架空線より時間がかかる場合があります。総合的には災害に強くなりますが、万能ではありません。
無電柱化は、災害に強く美しい街づくりを実現する重要な取り組みです。電柱の倒壊リスクを軽減し、歩道のバリアフリー化を促進し、観光地の景観を向上させる効果があります。
現在の課題は高額な整備費用と工事の負担ですが、低コスト化技術の開発により約3割のコスト削減が実現されています。小型ボックス構造やケーブル直接埋設構造などの新工法も普及が進んでいます。
2016年の無電柱化推進法制定により、国と自治体が連携した計画的な推進体制が確立されました。官民一体となった技術開発と財政支援により、今後さらなる普及拡大が期待されます。
無電柱化は一朝一夕には実現できませんが、安全で快適な未来の街づくりに向けた確実な一歩となっています。継続的な取り組みにより、災害に強く美しい「脱・電柱社会」の実現を目指していくことが重要です。
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